樹木医師の自然毒
はじめに
食中毒は腸管出血性大腸菌(O157、O111など)やノロウイルス等に汚染された食品を食べて起こる事はしられていますが、植物の中には、動物や昆虫に対する防衛手段で有毒な成分を含むものがあります。春か初夏にかけて大地の恵み、野草や山菜を間違って食べてしまって食中毒になる事例が数多く報告されています。
『自然毒のリスクプロファイル 厚生労働省』を参考にしました。
【植物性自然毒】
食中毒を引き起こす植物性自然毒はトリカブトやキノコなどによるものと、ふぐやアブラソコムツなどの魚介類の動物性自然毒に大別されます。人間がそのような自然毒を誤ってある程度以上の量を摂取してしますと、重症になったり、死に至るケースもあります。
『アジサイ』
・中毒症状:嘔吐、めまい、顔面紅潮
・発病時期:食後30~40分
・事例1
料理に添えられていたアジサイの葉を食べた10人のうち8人が、吐き気、めま いなどの症状を訴えた。
・事例2
居酒屋で、男性一名が、だし巻き卵の下にしかれていたアジサイの葉を食べ、嘔吐や顔面紅潮などの症状を訴えた。
・2008年~2013年
患者総数:14人 摂食者総数:54人
『アマチャ(甘茶)』
・中毒症状:嘔吐、悪心
・発病時期:食後10~1時間
・事例1
保育園の花祭りで、甘茶を飲んだ園児119人のうち28人が、嘔吐した。
・事例2
花祭りで飲んだ甘茶を飲んだ小学一年生99人のうち45人が気分が悪くなり、 吐き出した。
・2009年~2013年
患者総数:73人 摂食者総数:218人
『イヌサフラン』
・中毒症状:嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難(重症の場合は死亡することもある。)
・事例1
女性が自宅の畑でイヌサフランを採取し、じゃがいもと似ているところから食用にできると思い、球根をスライスして、ゆでて食べたところ、嘔吐の症状がでた。近所の女性も一切れ食べて軽症となった。
・事例2
女性が姉の自宅の庭に生えていたイヌサフランの球根を、ミョウガと間違えてゆでて食べ、腹痛や嘔吐など食中毒の症状を訴えて病院に搬送された。一緒に食べた姉はすぐに吐き出したため、体調には異状なかった。
・事例3
男性が家庭菜園で採取したイヌサフランの球根をゆでて食べたところ、下痢、嘔吐及び多臓器不全等の症状を呈し、その後死亡した。
・事例4
女性が自宅の庭に生えてイヌサフランの地上部をもぎ取り、食し、下痢、嘔気、嘔吐の症状を呈し、その後死亡した。
・2011~2015年
患者総数:6人 摂食者総数:7人 死亡者数:3人
・中毒症状:脈拍増加、呼吸麻痺、中枢神経刺激作用、血圧降下、心機能障害
・事例1
家庭で観賞用に栽培していたカロライナジャスミンをジャスミンの仲間だと誤認し、花をお茶にして飲んだ2名が同一症状を呈した。
・2006~2013年
患者総数:2人 摂食者総数:2人
『グロリオサ』
・中毒症状:口腔、咽頭灼熱感、発熱、嘔吐、下痢、背部疼痛などが発症し、臓器の機能不全などにより、死亡することもある。
・発病時期:摂食後、数時間以降に発症
・事例1
男性が自宅に植えていたグロリオサをヤマイモと間違えて採取し、食し、コルヒチン中毒により死亡した。
・2006~2013年
患者総数:2人 摂食者総数:2人 死亡者数:2人
『クワズイモ』
・中毒症状:悪心、嘔吐、下痢、麻痺、皮膚炎など
・発病時期:摂食後すぐに発症
・事例1
宿泊施設で、刺身のつま及び味噌汁の具として使用されたクワズイモの茎を食べた客4名中4名が中毒症状を訴えた。
・事例2
イベントで、販売されたイモ類に観葉植物のクワズイモの茎が混入し、買って食べた人に食中毒と見られる症状が出た。イベントで販売された芋類約60束の中に、誤って10~20束のクワズイモが紛れ込んでいた。
・2007~2013年
患者総数:46人 摂食者総数:49人
『ジキタリス』
・中毒症状:胃腸障害、嘔吐、下痢、不整脈、頭痛、めまい、重症になると心臓機能が停止して死亡することがある。
・事例1
女性が、コンフリーと間違えてジキタリスの葉6枚をミキサーにかけて飲んだ後に悪心、嘔吐が出現したため近医を受診した。心臓の刺激伝導系の機能が低下した状態であったため、体外式ペースメーカー植込み術で対処、第12病日にようやく改善しペースメーカーをはずした。
・2009~2013年
患者総数:1人 摂食者総数:1人
『ジャガイモ』
・中毒症状:、嘔吐、下痢、腹痛、目眩、動悸、耳鳴、意識障害、痙攣、呼吸困難、ひどい時は死亡することがある。
・事例1
小学校の6年生が、学校で栽培して収穫したジャガイモを、家庭科の授業で自分たちで炒めて食べたところ、2クラス53人のうち、35人が吐き気や腹痛を訴え、このうち男児9人、女児8人が救急車で病院に搬送された。症状は全員比較的軽い。
・2009~2013年
患者総数:119人 摂食者総数:285人
『シャクナゲ類』
・中毒症状:、嘔吐、下痢、けいれん
・事例1
一般家庭で知人から「血圧降下の交換がある」と譲り受けたハクサンシャクナゲの葉を乾燥させて、自宅で煎じた煎液を500ml摂取。
・事例2
マレーシアから持ち帰った蜂蜜による視覚異常、呼吸困難、歩行困難などの症状で病院に搬送される。
・2008~2013年
患者総数:1人 摂食者総数:1人
『スイセン類』
・中毒症状:悪心、嘔吐、下痢、流涎、発汗、頭痛、昏睡、低体温
・発病時期:30分以内の短い時間に発症
・事例1
30代と60代の女性2人がスイセンとニラと間違えて食べ食中毒になった。2人は道の駅直売所でニラとして販売されていたスイセンを購入し、酢味噌和えにして食べ、吐き気を訴えて病院の治療を受けた。スイセンは販売者が山でニラと間違えて採取し、販売していた。
・事例2
小学校で、調理実習で作った味噌汁を食べた児童5人が吐き気や嘔吐の症状を訴えた。校庭の菜園で栽培していたスイセンの球根をタマネギと間違えて入れた。全員軽症。
・事例3
老人福祉施設の利用者と職員計5人がスイセンを誤って食べた、嘔吐や下痢などの食中毒症状を訴えた。
・2008~2015年
患者総数:95人 摂食者総数:115人
『スノーフレーク』
・中毒症状:吐き気、嘔吐、頭痛など
・発病時期:30分以内に発症
・事例1
家族3人が、自宅近くの空き地に生えていたスノーフレークを採って食べ、軽い嘔吐などの食中毒症状を発症した。3人は70代の夫婦と40代の息子で、茎がニラに似ていて食べたという。
・2014年
患者総数:3人 摂食者総数:3人
『タマスダレ』
・中毒症状:吐き気、嘔吐、痙攣など
・事例1
小学校で行われた総合学習授業の中で、ノビルと間違えて校庭で採取されたタマスダレを食べた児童18人の内、15人が吐き気を訴えた。
※2016年以降は、確認されていない
『チョウセンアサガオ類1』
・中毒症状:口渇、瞳孔散大、意識混濁、心拍促進、興奮、麻痺、頻脈など
・発病時期:30分程度で口渇が発現し、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気
・事例1
親子3人がゴボウ畑に生えたチョウセンアサガオの根を食べ、しびれやめまいなどの症状を訴えた。畑で以前、チョウセンアサガオを鑑賞用として栽培していたことがあるという。
・2009~2013年
患者総数:18人 摂食者総数:18人
『チョウセンアサガオ類2』
・中毒症状:おう吐、瞳孔散大、呼吸の乱れ、けいれん、呼吸困難など
・事例1
石垣市で購入した野草茶(マスイー茶)を飲んだ2名が食中毒症状を訴えた。当該野草茶の植物性自然毒について検査いたところ、スコポラミンとアトロピンが検出された。製造販売したキダチチョウセンアサガオを使用した石垣島産野草茶(マスイー茶)による食中毒が発生した。
・事例2
自分でコダチチョウセンアサガオの花を調理して食べた後に、めまい、四肢弛暖等の神経症状を訴えた。
※2013年以降は、確認されていない
『テンナンショウ類』
・中毒症状:口唇、口内のしびれ、腫れなどのほか、腎臓にシュウ酸カルシウムが沈着して腎機能を障害する。
・発病時期:30分以内に発症
・事例1
若い男性が、川に流されてきたマムシグサ類の果実をトウモロコシと勘違いして食べたところ、口の中がしびれて、腫れた。
・2004~2009年
患者総数:6人 摂食者総数:6人
※子どもの頃、間違って食べることが、実際は相当数あるものと思われる。
『ドクゼリ』
・中毒症状:嘔吐、下痢、腹痛、目眩、動悸、耳鳴、意識障害、痙攣、呼吸困難など
・発病時期:30分以内に発症
・事例1
4月下旬に企業の職員食堂で、昼食時にワサビと間違えて採取したドクゼリをすりおろしてご飯にふりかけ食べたところ、36人が痙攣などの食中毒症状を起こした。入院した12人のうち重体1名を含む4名が集中治療を受けた。
・2008~2013年
患者総数:6人 摂食者総数:11人
『ドクニンジン』
・中毒症状:悪心、嘔吐、流涎、昏睡
・発病時期:30分~40分に発症
・事例1
山菜のシャク(山ニンジン)と間違えてドクニンジンの若芽を茹でてお浸しにして食し、中毒した。
・平成9年
患者総数:1 摂食者総数2人
『トリカブト』
・中毒症状:口唇、舌、手足のしびれ、嘔吐、腹痛、下痢、不整脈、血圧降下、けいれん、呼吸不全に至って死亡することもある。
・発病時期:10分~20分に発症することが多い。
・事例1
高齢者夫婦がニリンソウと間違えてお浸しにして食べ、全身あるいは下半身がしびれる中毒症状を起こした。
・事例2
モミジガサと間違えて採取されたトリカブトを親戚からもらい、お浸しで食し家族2名が中毒した。
・事例3
20~70代男女6人がニリンソウと間違えてトリカブトを食して中毒し、70歳代の男性が死亡した。
・2009~2013年
患者総数:15人 摂食者総数:20人 死亡者数:2人
『バイケイソウ類』
・中毒症状:吐き気、嘔吐、手足のしびれ、呼吸困難、脱力感、めまい、痙攣、血圧降下、など。重症の場合は意識不明となり、死亡する。
・発病時期:30分~1時間で発症
・事例1
飲食店営業者がオオバギボウシと思って採取した山菜を、天ぷらにして客に提供。さらにその山菜の天ぷらと酢味噌和えを営業者と従業員が試食。山菜の天ぷら等を食べた計5名が吐き気、嘔吐、血圧降下、手足のしびれ等の症状を起こし、医療機関に救急搬送され入院した。飲食店に残っていた山菜を鑑別した結果、バイケイソウであることが判明した。
・事例2
住民が知人と山菜採りお行った際、「ウルイ」と判断した植物を採取した。この植物を、飲食店に持ち込み、従業員に調理を依頼し、油で炒めて、採取者及び友人3名で軽食した。4名とも吐き気、嘔吐、めまい等の食中毒症状を訴えた。採取した植物の残品を鑑定を依頼いたところ、バイケイソウであることが判明した。
・2003~2013年
患者総数:91人 摂食者総数:104人
『ハシリドコロ』
・中毒症状:嘔吐、けいれん、昏睡などの中毒症状を発症する。
・発病時期:1~2時間で発症
・事例1
60歳代の夫婦が、採取した本植物を昼食にお浸しにして食したところ、嘔吐、けいれんを発症した。2人とも病院に搬送されたが、夫は重症、妻は軽症であった。
・2008~2013年
患者総数:7人 摂食者総数:9人
『ヒメザゼンソウ』
・中毒症状:嘔吐、口のしびれ、悪心、下痢、麻疹、皮膚炎など
・発病時期:摂食後すぐに発症
・事例1
男性が山林で食用のウルイ(オオバギボウシ)と思われる野草を採取し、自宅で茹でて1家族4人中1人が食べたところ、口のしびれを訴え、医師の治療を受け入院した。
・2014年
患者総数:1人 摂食者総数:1人
『ベニバナインゲン』
・中毒症状:吐き気、嘔吐、下痢、腹痛等の消化器症状
・発病時期:10~23時間に発症
・事例1
テレビ番組で「白インゲン豆」の摂取によるダイエット法の特集があり、その後、番組で紹介された「2~3分煎り、粉末状にして食べる」という調理法により調理、摂取した多数の人が、嘔吐、下痢、腹痛等の消化器症状を発症した。軽食量は大さじ2杯と回答した人が多数。「白インゲン豆」は白花豆、手亡豆、白金時豆、大福豆の総称であり、番組内で使用されたのは大福豆であったが、健康被害を起こした事例で確認された白インゲン豆ほとんどは白花豆であった。
・2006年
発生件数:38自治体 患者総数:158人(入院者数30人)
『ユウガオ』
・中毒症状:唇のしびれ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
・発病時期:数時間に発症
・事例1
スイカ接木苗の台木のユウガオが伸びて実をつけたので食べたところ、摂食者3名が、中毒3名。口の痺れ、後吐気、嘔吐、腹痛、下痢を起こした。
・事例2
家族3人がユウガオを食べて食中毒になった。3人が食べたユウガオの残品などから、苦味成分のククルビタシンが検出された。朝食に店から購入したユウガオとベーコンのスープを食べたところ、約20~30分後に腹痛や下痢、嘔吐などの症状を訴え、全員が医療機関を受診した。
・2008~2013年
患者総数:27人 摂食者総数:42人
・中毒症状:嘔吐、下痢、腹痛、延髄に作用し、けいれんを起こして死亡する。皮膚に対しても刺激作用がある。
・発病時期:2時間で発症
・事例1
ヨウシュヤマゴボウの根を採取し、味噌漬け加工を行い、7名で喫食した。嘔吐の症状、診察を受ける。採取した患者はキク科「ヤマゴボウ(モリアザミ)」の詳細な知識は無く類似した名前であるヨウシュヤマゴボウが、市販されている「ヤマゴボウ」と誤認。
・2006~2008年
患者総数:13人 摂食者総数:13人
まとめ
食用と判断できない植物は、採らない、食べない、売らない、人にあげない、ようにして、山菜採りなどを行うときは、知識のある人と採るべきですね。上の本は為になりますよ。