植木のお医者さんに教えてもらう

庭のお困り事、解決します。

樹木医師の挿し木、接ぎ木は親木のクローンです、其の二!!

はじめに

京都で有名な北山杉(台杉)は、実が生らないのでスギ花粉の心配もありません。実が生らないということは、花粉が飛ばないということです。

京都北山中川にある、中川八幡にある母樹(台杉)は、500年を超えても樹形が崩れず、真っ直ぐに伸びています。この木を「シロスギ」とよび、この木からさし木で増やしたシロスギの子孫たちが、台杉の風景を作っています。庭木にも利用されて全国で台杉を見ることができますが、もともとは、このシロスギのクローンということですね。

京都の円山公園にある「祇園枝垂れ桜」は全国でも有名ですが、昭和22年に枯死し、現在の枝垂桜は二代目です。また、さくら守の方が三代目となるクローンを育てていると聞きます。

桜の代名詞ソメイヨシノも花粉が受粉しても受精にいたることが困難で、ソメイヨシノ同士で受粉できないため、接ぎ木などによるクローン以外、増やす方法がありません。全国にあるソメイヨシノはすべて同じ遺伝子を持つクローンということです。

梅雨時期に咲いて、うっとうしい気分を和ませてくれるアジサイは、江戸時代以前に野生のガクアジサイを品種改良したものです。装飾花ばかりで、種子をつけないので、おもに挿し木でふやされてきました。

古い時代から、クローン技術はあったということになります。植物のクローンはどのようなメリットがあるのでしょう。

 

被子植物においてはおしべで作られた花粉がめしべの先端の柱頭につくこと、裸子植物においては雄花から花粉が雌花の胚珠につくことです。受粉が成立すると、種が作られます。

植物で種子のできないことを不稔性といい、雄側に責任があるときを雄性不稔といいます。花粉を作らない性質です。雄性不稔スギは花粉を全く生産しないことから、スギ花粉症軽減を担うことが期待できます。ただし雌しべが機能しているので、ほかの株から花粉を運んでくることで種はできます。

雄性不稔を利用して作られた野菜のたね、それがF1品種というものです。F1品種は異なる2以上の品種を組み合わせた雑種の第一代目のことで、ハイブリッドとも呼ばれます。現在、私たちが購入して食べる野菜は、このF1のタネで育てた野菜です。家庭菜園で作る野菜のタネも、ほとんどがF1のタネです。

F1の種で作ると、おなじ規格の野菜ができます。現在の農業ビジネスではおなじ規格のものを大量生産することが求められています。多くの農家がF1を利用しています。

F1は、一代限りなので、昔のように作物からタネをとって、そのタネをまくこということがなく、また、タネを購入すということになります。F1には賛否両論あります。

雌花に責任があるときは雌性不稔いいます。雄しべが花粉を生産できるので、他の株へ受粉させる事は出来ます。

雄、雌の両方が機能しないときを中性不稔といいます。株分け挿し木でしか増やせません。アジサイなどはこれに当たります。

 

江戸時代末期につくらたソメイヨシノは、遺伝子解析から、エドヒガンとオオシマザクラの雑種の交配から生まれたことが明らかになっています。

ソメイヨシノのめしべには、自分の花粉と自分以外の花粉を識別できる能力があります。自分以外の花粉とだけ交配し、自分同士で交配しないための仕組みがあります。この仕組みを「自家不和合成」と呼びます。簡単にいうと、ソメイヨシノは自分の花粉では受精しないということです。自分の遺伝子を他の植物へ拡散する狙いや、他の遺伝子を取り入れることで進化する狙いがあるようです。ソメイヨシノソメイヨシノとでは受精できないので、他種のサクラと交雑してしまいます。つまり、生まれる子供はソメイヨシノではないということです。そのことから、ソメイヨシノは挿し木か接ぎ木でしか増やせません。

伊豆大島には、樹齢800年以上の「大島の桜」があります。国の特別天然記念物に指定されています。ソメイヨシノの寿命は60~100年と言われています。寿命までは遺伝しなかったのですね。また同じ遺伝子を持ちますので、病害が広がれば全滅の恐れもあります。

 

遺伝的組み換えなしにクローンの子孫を作ることを無性生殖といいます。

アメーバやミカヅキモなどは単細胞動物は、1個体が分かれて新しい個体が作られます。これを分裂といいます。マラニア病原虫のように一度に数個分裂するのもあり、これを複数分裂といいます。

多細胞植物の中にも種子からだけでなく、からだの一部が独立して親と同じ形になるものがあります。たとえば、竹は地下茎とよばれる茎からタケノコを生やし、次々と分身をふやしていきます。たまイチゴの場合、果実が実った後に、中央から長い茎が伸び、その茎が地面につくと、そこから根や葉がでて、分身が育ちます。

このように受精をせずに子孫を増やしていくことを無性生殖といいます。

竹は120年に一度花を咲かせ枯れると言われています。竹藪の寿命は60~120年程ですが、1本の竹の寿命は10~20年程です。その間分裂(無性生殖)をくりかえし新しい竹を生み出しています。、寿命を迎えた竹藪は初めて交配(有性生殖)をして花を咲かせ、実を付けます。そして竹林は枯れしまいます。やがて落ちた実が新しい竹藪をつくります。

有性生殖は細胞の融合によって新しい個体を作るため、新しい遺伝子の組み合わせが生じます。これに対し無性生殖では、体細胞分裂を基本として新しい個体を生み出すため、発生した新個体は完全に親と同じ遺伝情報を持つもの、クローンということです。

 

まとめ

スパーマーケット売っている野菜はみな同じ大きさ、同じ太さですね。形が曲がっているものなどは、最近道の駅でも見かけなくなりました。それだけF1のタネが増えたということですね。この技術はアメリカで開発され、今や世界基準になっています。

手間がかりますが、日本では古くから接ぎ木、挿し木、品種改良という技術で野菜を育ててきましたが、これからは、時間も、コストもかからない、F1種が一般的になるのでしょう。